カタチの教科書#0 連載趣旨
HOME 2003年1月号から連載(一部抜粋)
手仕事による細やかなカタチ、伝統や過去の記憶を受け継いだ豊穣なカタチは、大量生産のプロダクトでは得られない豊かな空間をもたらしてくれ る。このクラフトデザインと呼ばれる手をつかうことを中心とした工芸的仕事は、インダストリーな生産システムの非人間性に対して、対極的に扱われてきた。
しかし、私たちは一方で、均質で直線的な工業生産品・大量生産のプロダクトに対しても新しい美的感覚を持っている。たとえば規格のベニア合板で作られた箱 のようなものに対してもシンプルな美しさを感ずることができる、いわば「ベニアの目」とでも言うような、工芸的仕事を見るのとは異なった感覚も併せ持って いるのである。
クラフトデザインが伝統的や過去の記憶を受け継いでいて私たちの美意識の原点にふれるモノであるとすると、「ベニアの目」とは、現在の私たちの生活に基点 を置くような美的感覚と言うこともできる。私たちはこの様な二重の感覚にさらされていて日常を生きていると言ってもいいかもしれない。
この連載はクラフトデザインを伝統的技術から拾い出して現代的な視点から捉えなおしてみようという試みであるが、二重の美的感覚に共通するものにもフォーカスをあてようという趣旨である。